イスラム陶器 いすらむとうき
イスラム陶器
いすらむとうき
イスラム圏で作られた各種施釉陶器の総称。9〜10世紀の東南アジアには、海陸両路による貿易の隆盛に応じて、中国陶磁とともに、初期イスラム陶器の青緑釉(Turquoise glazed ターコイズ釉)壺やガラス器が広範に分布する。まれに錫白釉を少数伴うが、東南アジア以東ではほぼ青緑釉壺に限られる。青緑釉陶器の窯は未発見でイラク・サマッラ、イラン・ビシャプール周辺が有力視される。この陶器の胎土は淡黄色の軟質・多孔質のもので、濃い青緑色の銅アルカリ釉が厚く掛かる。胴部に貼付けの綱文・連珠文、線刻文・弦文などを持つことも多い。イスラム圏より東では、東西貿易の結節点と推定されるスリランカのマンタイ遺跡で青緑釉・錫白釉陶器、ガラス器が多く出土し、次いでタイのコーカオ島とポー岬の遺跡も多く、ベトナム、フィリピン、マレーシア、中国、日本でも出土する。
中国では長興元年(930)の紀年銘を持つ五代の劉華墓(福建省福州市)で3個体の大壺出土例のほか、揚州(江蘇省)、桂林(広西省)などの例がある。日本では、鴻臚館跡・多々良込田遺跡・博多遺跡群(福岡市)・大宰府条坊跡(福岡県太宰府市)・筑後国府跡(福岡県久留米市)・原の辻遺跡(長崎県壱岐市石田町)の9世紀後半〜12世紀までの出土例があり、北部九州に集中する。以上の初期イスラム青緑釉壺以外に、中期イスラム陶器が福田天神遺跡(兵庫県竜野市)、太宰府天満宮(福岡県太宰府市)で出土し、後者は複合胎土を持つ希少例である。
(山本信夫)
以上、転載
