鍬形石 くわがたいし

鍬形石
くわがたいし

日本の古墳時代前期につくられた腕輪形石製品の一つ。その祖源は、弥生時代に九州中北部で盛行した南海産巻貝製腕輪につながるが、直接のモデルは3世紀に九州経由で近畿地方にもたらされた新型式のゴホウラ製腕輪である。3世紀後葉〜4世紀中葉までの1世紀弱の短期間に、おもに碧玉・緑色凝灰岩など緑色系の石材を素材に製作された。製作地の一つ石川県片山津遺跡から未製品が出土しているほか、近畿・東海地方でも作られた可能性も指摘されている。鍬形石を出土した古墳は、東端を石川・岐阜・愛知県を結んだライン、西・南端を福岡・大分県とする。石釧・車輪石を含めた3種類の腕輪形石製品のなかでもっとも分布域が狭く、出土数も少ない(現状で約60基の古墳と、いくつかの集落遺跡から約230〜250個体)。近畿地方と周辺域の大型古墳からの集中的な出土が顕著で、腕輪形石製品では高いランクにおかれたと見られる。形態変化が顕著で、型式学的研究の格好な素材となっている。鍬形石は祖型を異にする二つの製作系譜があり、両系譜とも祖型のゴホウラ製腕輪を忠実に模したものから、次第に形式化する製作過程が明らかにされている。

(柳沢一男)

以上、転載