朱 しゅ
朱
しゅ
古来より多くの民族で好まれ使われた赤色顔料(水に溶けない赤色の粉)の一種。主成分の化学組成は硫化水銀(HgS)である。天然には辰砂という鉱物をすり潰して得る。辰砂(丹砂ともいう)は中国・日本・スペイン・南米などで産出する。人工的には水銀と硫黄で合成する。中国・明代の『天工開物』に製法が記載される。古代では器物彩色のほかに、葬送儀礼で汎世界的に使用されていた。日本の弥生・古墳時代では、遺骸の頭部には朱、埋葬施設には酸化第二鉄を主成分とする赤色顔料ベンガラを塗布・散布し、2種を使い分けた。また、中国では煉炭術の主原料であり、後漢時代の『抱朴子』には「丹砂は焼けば水銀になり、さらに何度か変化させれば、また丹砂にもどる」とあるので、合成朱の製造はさかのぼる可能性が高い。なお、朱は自然科学の用語や美術工芸の材料としては硫化水銀を示すが、日本の考古学の用語では、その化学組成とは関わりなく、古代の赤色顔料全般を総称している場合も多い。
(本田光子)
以上、転載
