弩 ど
弩
ど
弓の一種。「いしゆみ」「おおゆみ」ともいう。弓の中央に腕木となる臂をつけ、臂の手元側に発射装置の機を取りつけたもので、臂上面に彫り込まれた凹槽に矢を挿入して発射する。『史記』などの記述から、古代中国の春秋時代にすでにその存在が知られる。漢代の画像石に見られるように狩猟用の弩もあるが、戦国時代から漢代にかけて主要な武器となり、三国時代まで盛んであったが、その後衰退した。秦始皇帝陵の兵馬俑には組織化された弩兵が認められるほか、戦国〜漢代の墳墓からは副葬品として弩機がしばしば発見される。また、江蘇省盱眙県東陽西漢墓や、朝鮮半島楽浪郡の王根墓(石巌里219号墓)および王光墓(貞柏里127号墓)からは木臂部分が良好に残った弩が発見されている。
日本の弥生時代に弩が発見された例はないが、島根県出雲市姫原西遺跡からは、弥生時代終末期の弩形木製品や楽浪郡の遺跡などで出土する三角銅鏃を模した木鏃が出土している。また、弩用の鏃と考えられている中国製銅鏃が、長崎県壱岐市原の辻遺跡(中期前半、三翼鏃)や福岡市姪浜遺跡(中期後半〜後期、三稜鏃)をはじめ、島根県・兵庫県などで出土しており、楽浪郡との交流を示す資料として注目される。なお、日本における弩に関する最初の記述は、『日本書紀』推古天皇26年(618)に、高句麗が隋の弩をわが国に献上してきたと見えるが、弩の使用は律令制軍団の成立以降とされている。弩機の実例としては、1998年(平成10)宮城県栗原市(旧栗原郡)築館町にある伊治城跡の8世紀後葉頃の住居跡から出土した弩機がある。
(足立克己)
以上、転載
*辞典解説文より漢字ピックアップ
臂
ヒ
盱眙
クイ
