富本銭 ふほんせん
富本銭
ふほんせん
「富本」の文字を上下に、「七星文」を左右に配した古代の銅銭。直径約24.4㎜、厚さ1.5㎜前後、中央に約6㎜の方孔が開き、重量は4.6g前後である。鋳銅成分は「銅・アンチモン合金」である。1999年(平成11)の奈良県明日香村飛鳥池遺跡の発掘調査で、7世紀末にさかのぼる初鋳年代が確定した。しかし、これまで最古と考えられてきた「和同開珎」をさかのぼる銅銭の出現に、識者の対応はさまざまで、天武12年(683)の「今より以後、必ず銅銭を用いよ」の銅銭に当てる説や、富本銭は通貨ではなく厭勝(まじない)銭だとの説が、現在でも対立している。1985年(昭和60)平城京跡の発掘で古代の銅銭であることが初めて判明し、さらに数年後には、藤原京の時代にまでさかのぼることが確認された。ただし和同銭との先後は不明で、和同銭が通用銭、富本銭は厭勝銭と解釈されるのが一般的であった。それは和同銭の出土例が数千であるのに対し、富本銭は飛鳥池遺跡を除けば、20例未満と極端に少ないことにもよる。鋳造年代が和同銭よりさかのぼるとわかっても、流通の程度を疑うのは、この類例の少なさにも原因がある。
(黒崎直)
以上、転載
